「見立温泉」 
1995.10   2010.2.20〜6月 2019.05.11
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 見立温泉へはまだ私は到達したことがありません。過去に2回アタックしています。2回とも交通手段はバイクです。1回目は、葉の落ちた秋でしたが、未舗装車道からの分岐点がわからず、林道の一番奥、鷲合森鉱山を閉鉱したあとの突き当りまで行って戻ってきました。 2回目は浅雪の積もった所で途中でバイクを置いて徒歩で向かいましたが、山道の途中にある偽見立の湯を、それと知らずに本物と勘違いして戻ってきたものでした。
 十数年ぶりの今回は、一年で最も雪が深い季節。しかも岩手でも豪雪地帯の西和賀地区の、民家も果てた所から数キロ山奥にある温泉をクロスカントリースキー装着で目指しました。
 
2010年 6月の記録(ページ内移動)
2019年 5月の記録(ページ内移動) 
 
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 まず初回アタック時のようすです。手前の草がストロボに光っていますが、背後の山が夏油温泉に至る鷲合森です。
 撮影位置はこの辺りで、鉱山があった跡らしいのですが、坑道の入り口は排水管だけを残して塞いでありました。
 当時の撮影はフィルムカメラですので、これらのデータはネガからスキャナで読み込んだものを使用しています。
 右は林道行き当たりの広場です。十数年経過した現在はもしかすると雑木林になっているかもしれません。
 このときは車道から見立温泉へ入る山道へ分岐する入り口がわからず、戻ってきました。

 左は上の1ヵ月後くらい。2度目のアタックです。11月で雪が積もり始めています。舗装工事が冬仕舞いをしているところでした。バイクは雪には弱い(ハンドルをとられて転倒するため)ので浅いうちに停めて、歩いて向かいます。

 車道を数キロ歩行して、やっとそれらしい入り口をみつけ、山道に入ります。(右写真RO)
 
 しばらく行くとコンクリートの構造物がありました。湯気が立っています。でも落ち葉が溜まって温度も低く入浴できるような状態ではありませんでした。
 このときはここが見立温泉だと思い込んで、少しがっかりして戻りました。しかしその後ネットの普及などで情報収集を進めるうちに、ここはニセ見立の湯というところらしく、この奥に本物があるらしいことがわかりました。

 2度のアタックから十数年が経過しました。情報収集は書籍と中心としたものから、世の中はインターネットが最新で豊富な映像入りの資料をいつでもほぼ無料で入手できるようになりました。そこで秘湯関係の項目を見ていると、見立温泉の手前にあるのは俗に「ニセ見立の湯」というところで、その奥に本物があるらしいことがわかりました。これは再挑戦する価値がありそうです。

 向かったのは一年でも最も雪深い2月。しかも岩手県内でも豪雪地帯で知られる西和賀町のさらに山奥です。何らかの沈み込み対策が必要です。
 今回は林道(車道)の未除雪区間が4kmあまりと長いことが想定されますので、クロスカントリースキーを選択しました。
 前泊で道の駅錦秋湖に泊まります。観光客は多くないのですがR107を通過する業務車両などが多く利用します。こちらで売っている湯田の飲むヨーグルトは安くておいしい逸品です。
 右写真はトンネルではなく、積雪・雪崩対策のドームです。R107から逸れて橋を渡り、穴ゆっこやハイウェイパークオアシス館のあるほうへ向かいます。
 南本内川に沿って本屋敷集落がありますが、その最後の家の前まで除雪がされています。そこからクロスカントリースキーを着けて歩き始めます。
 もちろんこんなところにやってくる人が他にいるはずもなく、深い新雪を踏みしめながらゆっくり進んでゆきます。周りは昨夜の雪がまだ枝から落ちていないところもあり、静寂の世界です。陽射しも出てきました。
 あまり傾斜の無い所を行きますのですり足で進めますが、底に次第に雪が付着してきますので途中でワックスを補充したりしながら行きます。弱い風でも周囲の枝に積もった雪が一面に降ってきたりします。

 雪の中を進んでゆくと、足元に小さな黒い点が動くのがわかりました。(下の写真)
 大きさは、上写真の緑の部分が手袋の人差し指ですので、体長3〜4ミリでしょうか。何かで見た事のある、雪虫というものではないでしょうか。他の昆虫類はこの時期他の変態の時期にあるか、クワガタなど成虫で冬を越すものもあるようですが、少なくとも雪の中を自発的に雪の中を歩き出すことは無いようです。
 獣の足跡以外に生き物の痕跡が無い所では珍しい出会いでした。
 何箇所かピンクのリボンがありますが、これは工事・作業の目印で、温泉への案内ではないようです。
 歩行開始から2時間ほど経過しましたが、地形図上ではまだ1kmほどはあり、勾配もややきつくなってくるようなので、到達は断念して戻ることとしました。
 あまり精魂詰めずに、ゆったりと楽しめればよいので、また次回来ることにします。
 クロスカントリースキーは下りが得意ではありません。そもそもエッジ自体が付いていません。でも通行止めの林道(車道)はちょうど良い勾配です。
 勾配のゆるい所ではストックも使って屈伸運動も加わっての全身運動になりますが、のぼりよりはだいぶ早く戻ることが出来ました。
 板を外して、何度か転んで付いた雪を払って車内に入り、雪景色を見ながら昼食にしました。
 


 そして雪も消えた5月の下旬に、また道の駅錦秋湖にて朝を迎えました。空は曇りで小雨が降っています。気象予報会社の1時間毎のこの地域の詳しい予報を見ますが、曇りのち晴れです。とりあえず近くまで行きます。

 前回の、除雪最終地点の三叉路まで来ました。標識があって、まっすぐ進むとこのような案内になっていますが、実はさらに続いて、道は奥羽山脈を越えて秋田に至ります。一度だけバイクで向こうから越えてきたことがあります。
 さて、崩落した小規模な土砂が散らばる道をしばらく行くと、車両通行止めとなっていまして、その先温泉までは2kmほどあります。雨も強くなってきまして、4回目のアタックも引き返すこととしました。


 6月に入って、入梅前の比較的天気が安定した季節に、またやってきました。晴れた空のもと、錦秋湖にかかる橋を渡ります。

 今度はうまく行きそうです。林道の先でやはり災害のため車両は通行止めとなっていますが、天気もよいので歩いて向かうこととします。春蝉が鳴く、森の道をてくてくと進んでゆきます。
 地形図上でもGPSで場所を確認しながら行きます。冬に来たときにはこの少し先で引き返しました。
 山の中ではたまに、雨が降っていなくてもでんでんむしを見かけます。そしてなぜか左巻きで色の黒っぽい種類が多いようです。殻も結構傷がついていましたので、長く生きているのだと思います。
 また長男が小さいときに、山の中で捕まえて持ち帰って飼っていたアンモナイト君を題材にしたビデオを思い出しました。
 さて、30分ほど歩いて、車道から山道に入る所に、見立の湯の看板がありました。ここからは勾配も急になって、谷川を見下ろす急斜面を横切ってゆきます。
 5分ほど進みますと、コンクリートの槽が現れます。ここは15年前に見立温泉だと勘違いして戻った所です。やはり入れるような状態ではありません。
 でも今回はこの先に本物の見立温泉がある(らしい)ことがわかっているので、道の続きを進んでみます。
 すると100mも進まない所の谷沿いに目指す見立温泉が現れました。
 この奥には鉱山の跡があり、来る途中にはこの沢をまたいで小さな壊れかけた吊り橋があったりしますので、この温泉は私たちのような温泉好きのために設置されたものではなく、生活の一部として利用していたものと思われます。
 湯船は2つに分かれています。これも想像ですが以前には上屋がかけられてあって、男女別になっていたのかも知れません。でも鉱山で女性が少ない事も考えられます。もう一つの可能性は、先人の探訪記にもありますが、片方しかお湯が溜まっていないことが、特に寒い時期に多いようです。つまり、放熱面積が少なくなって、湯温を下げないために片方だけを利用していた可能性もあります。

 早速入浴します。春蝉と渓流の瀬音が響く中、やや温い目の透明なお湯にゆったりと浸かって、至福のひとときを過ごさせてもらいます・・・。それにしても化石燃料に拠らない、自然の熱源は気持ちがいいです。
 帰り道、道端の小さな流れが赤茶色なのを見つけました。ピンと来ました。これは上流の赤土の泥で濁っているのではなく、鉄分が多い泉から湧き出たものが、空気と接触して流れるうちにこのような色になったものです。上流にたどれば、ここにも温泉(成分は鉄泉)が湧き出ているかもしれません!
 少しの間ヤブを上流に向かって漕いで見ましたが水温が上昇する気配はなく、このあとまた行きたいところもあるので今回の探検は中断しました。

こうして15年ぶり、5度目のアタックでようやく見立温泉に入ることができました。

※ この見立温泉到達までを記録したビデオが、NHKとれたてマイビデオで放送されました。日時は平成22年7月6日(火)の朝5時20分ころからです。
 早起きしてご視聴いただいた皆様、どうもありがとうございました。

2019.05.11の見立温泉
 秋田県横手市からの帰り道に、新緑に誘われて南本内川へと進んできました。最後の家があるところが三差路になっていて、沢沿いにまっすぐ行く道は未舗装で狭いのですが、南本内岳(焼石岳の近く)の登山口を経て峠を越え、秋田に至る林道です。
 この民家は、岩手県内ではレストランとして何度か報道されています。帰り道に立ち寄ってみたかったのですが、なんと、観光バスが横付けされていましたので、後日の楽しみにしました。
 左の林道を見立温泉をめざして進んでゆくと、いつものあたりにバリケードがあって、車を置いて歩き始めます。山肌の雪や、満開の山桜、キクザキイチゲなどを楽しみながら進んでゆくと、雪庇が崩落してギリギリ通れるところがあったりします。
 車道は前回数年前に来た時よりも道幅が拡げられて、大型土嚢が置いてあったりしてもっと奥のほうで、何か工事をしているようですが、鉱山跡がどうなっているか次回の楽しみにしたいと思います。 
 車道から山道に入る所には、以前は「見立の湯」という看板があったのですが、豪雪のためか無くなっていて、代わりに赤のテープが枝に何枚かつけてあります。
 歩道には、一部だけですが谷側に切れ落ちているところがあって、転落しないように気を付けて行きます。
 歩道を10分も進むでしょうか、ニセ見立の湯のすぐ先に、渓流沿いの見立温泉が現れます。浴槽はきれいに掃除されていて、どなたかが手入れをして下さっているようです。手を入れてみると、以前と変わらず適温のお湯があふれていました。
 早速、妻は足湯で、私は全身浴を楽しみます。
 渓流のせせらぎと春蝉の合唱、頭上には若葉の広葉樹、雪渓と滝も眺められます。ぬるめのお湯は長く浸かっても寒くならない程度で、健康にも良さそうです。源泉を少し口に含んでみましたが、濃い味はしませんでしたので、単純泉かもしれません。

 下の写真のような景色をを眺めながら入る温泉は、至福のひと時です。6月になる前に雪は消えて若葉が濃くなります。
 帰り道に出合った青年と温泉や鉱山の話をしながら歩いてきて、色々情報をいただきました。昼食の時間になりましたので、前述のレストランに入ってみたかったのですが、次回の楽しみにして、道の駅 錦秋湖にやってきました。
 左は白金豚ローストポーク丼、右は湯田ダムカレー(春バージョン)です。このほかに地元の漬物食べ放題がサービスです。行者ニンニクの漬物もありましたが、人気らしく、お代わりに行ったら無くなっていました。でも家に帰って早速栽培している行者ニンニク(少しトウがたっているけど)を使って真似をしたら、けっこうおいしくいただけました。
 レストランは待ち時間が出るほどお客さんが一杯でしたが、特にダムカレーはわざわざ食べに来るくらい美味しいかもしれません。緑色に最初は驚くのですが、春の若葉バージョンらしいです。辛みは強くなく、味わいがあります。ポーク丼も副菜と汁物が付いて、たれの味付けも良く、二人で完食しました。

 野山にある温泉はいいですね。

 動画はこちらからご覧ください。